· 

ある日突然に

今日は、晴天。やや暑いくらいであった。今年の春は寒さが長びいた。昨日の夜の嵐が、やっと春、いやいきなり初夏の始まりを連れてきた。

 

アパートの正面玄関と地下の入口のスペアキーを作りに出かける。途中、大きなカトリックの教会の横を通ることになる。芝生の緑がキラキラしてまぶしい。ふと緑の中に茶色の毛束のようなものを見つける。茶色とごけ茶色、そして黒い毛が混ざっている。「誰かが、教会の敷地内の芝生の上に”かつら”を捨てていったのか!」と思う。ボリュームのあるロングヘアが魅力的とされるアメリカである。エクステンションヘアをつけている女性も多い。なにかのきっかけで外れてしまったエクステンションの毛束が、道端に落ちていることがよくある。

 

しかし、よく見ると”かつら”が息をしている。

 

それは、リスであった。うつ伏せで寝ている。しかし、息が荒いような気もする。小動物は心臓の鼓動が速いので息が早いのは当然かと思う。立ち止まり『Hey! Hey! 』と、りすに声をかけるが動かない。

毛で覆われた小さな耳が、とても可愛らしい。

「りすさん、教会の芝生でお昼寝かな」と思い立ち去る。

 

スペアキーを作ってもらい、鍵が合うかどうかを早く確かめたいので家路を急ぐ。そして、あの教会の横に差し掛かる。緑のなかに茶色を探す。

 

あのリスは突っ伏して寝転んだままである。息の荒さも同じ。心配になりそこにしばらく立っている。そうすると、鳩が4羽、このリスの近くに降り立ち。リスに向かって歩いていく。 

そうしているうちに、小鳥も一羽降り立ち鳩の後ろから遠巻きにリスの様子を見ている。

 

この、鳥たちはリスの異変に気付いている。彼らなりに何か意味があり、りすの周りに集まってきたようだ。

 

教会の周りにはフェンスがあり、中には入れない。頭の中で『仮死状態のリスの心臓を刺激して、そのリスを助けた警察官の動画』を思い浮かべる。私は、「このリスを見殺しにしているのだろうか」と自責の念が湧き起こる。「いや、このリスは納得して今から死のうとしているのだ。事故ではない。」と自分に言い聞かせる。

 

野生動物は人がいるところでは死なないというが、人馴れしたリスはもはや野生ではない。りすは、晴れた日にふかふかの緑の絨毯、教会の芝生の上、桜の木の下を死んでいく場所に選んだのだ。

 

私は、”曖昧な感情”を抱きつつアパートに帰る。

 

そして、夕方もう一度、教会の横を通ると、リスの姿が見えない。「あっ、やっぱり昼寝していたのだ」と思い安堵したとき、茶色の毛束を見つける。

 

死んでいた。すでにハエが二匹リスの周りを飛んでいた。

 

教会の敷地内で死んだのだから天国に行けるだろう。あす、教会の人がリスを見つけて処分するのだろうな。今日は暑い日なので、一日といえ死体の損傷は激しいだろうな。などと思いを巡らせる。

 

ふかふかの緑の絨毯の上で眠るように死んでいったリス。最後には鳩と小鳥に看取られて。私も看取ったことになるのだろうか。

 

 

 

***長いこと、ブログを書こうと思いあぐねてきた。

始める時は、突然である。